1999年度山宮隆個展企画書

[98/12/07]

この文書は、山宮隆が1999年秋頃をめどに想定している個展の為の企画書である。実際に展覧会の日程、会場、作品などの具体案を練る前に、このような企画書を提出する事を画廊側に求められた。この展覧会が実現するか、泡と消えるかは今後の私の営業努力次第と云うわけです。


テーマ:

機械と魔術


内容:

山宮隆が独自に考案、制作した魔術機械の展示と実演。

制作において使用した様々な自作の工具や設計図、テキスト、制作過程の記録資料、及び様々なグッズ(Tシャツ・絵葉書)などの展示、販売

魔術機械とは、不合理的な手段(所謂オカルトを含む)により様々な困難な問題(恋愛、怨恨、自己否定、漠然とした不安、不治の病)などを解決する事を究極的な目的とする機械群である。モチーフとしては、様々な現代の都市伝説や子供のオマジナイ、民間伝承等から、機械化しやすい物を選ぶ。例えば「こっくりさん機械」や「下駄投げ式天気予報機械」、「Oリング養成ギブス」などが考えられる。

また、これらの機械の制作においては、ある種のリアリティーの追求(魔術を込める為?)を考え、自作のオリジナル工具を使用する。それらの工具は使用後、小品として展示、販売する。

■こっくりさん機械:「狐狗狸さん」とは周期的に少女達の間で流行る予言遊びである。予言は、50音表に指を滑らせ、そこから単語を見出す事によって行われる。バラバラにした音素を再構成するという行為には、中世の記憶術に始まる記号論の流れ、そして現代の情報論を連想させる物があり興味深い。「こっくりさん機械」はコンピュータの魔術的表現といえる。

■下駄投げ式天気予報機械:我々は幼い頃、自分の靴を蹴り上げて、地面に落下した靴の表裏で天気を占った。偶然性に身を任せる事のスリル、それを天候と結び付けるおおらかな想像は貴重な体験であった。「下駄投げ式天気予報機械」はその行為を機械化する。靴を投げる事を忘れた大人達のための、素朴な賭博玩具である。

■Oリング養成ギブス:医学の範疇に収まらない、様々な心理的、身体的変調を調べる為の民間療法はいくつも存在するが、ここで取り上げる「O(オー)リングテスト」は、その中で最も知られた物である。施術者は人差し指と親指で作られる輪(Oリング)をもとに、患者からの様々な情報を得る事が出来るとされる。「Oリング養成ギブス」は様々な不確定要素を持つ「Oリングテスト」を合理化し、機械化する為のギブスである。


意図:

オカルトブームという言葉が使われるようになってから久しい。機械化され、合理化されていく現代社会の中で、その反動として、合理的な説明を拒む様々な隠された存在(=オカルト:occult)への深い関心が広まることは、ある意味自然な流れである。オカルトの弊害は様々に指摘されているが、しかし潜在的に、隠された物への興味は我々すべての中に存在し、それが人間性と呼ばれるものの大きな要素になっていると私は考える。

魔術機械は、決してそれらのオカルト、民間信仰や疑似科学を否定する物でも、批判する物でもない。むしろ我々の日常生活の中で大きな実用的役割を占める機械と、民間信仰などの現代の魔術とを結び付ける事によって、合理と非合理の狭間に潜むユーモアに着目し、評価しようとする物である。

機械の無い生活がもはや想像できない一方で、我々は現代機械文明の抱える様々な矛盾に直面している。そんな中で、今後の展開を考える上での多くのヒントが、オカルトを求める人々の心理の中に潜むのではないだろうか。


山宮隆 yamamiya@kcua.ac.jp