山宮隆の健康実験室について98-07-16

[98/07/16]

1 作品について

今回、山宮隆はキリンプラザでの個展のために、「健康」をテーマにした作品「健康機械」を5点ほど発表します。現在そのうち1点が完成。アイデアがほぼ固まった段階のものが2点あります。

いずれもギアやカムなどの基本的な機械要素を組み合わせた動く作品で、観客自らが自分の体を使って体験できるようにしております。

1.1 背中叩き健康機械(完成)

高さ約3メートルの大きなやぐら状の作品。観客は中央のサドルにまたがり、ペダルをこぐことによって動かします。すると、ギアの動きが機械の各部分に伝わり、最終的に観客の背中を機械が叩き、マッサージします。

一般のマッサージ器とは違い、機械の高さなどの位置を観客が調節することは一切出来ません。そこで、気持ちよくなるには自分で座る位置や背中の角度をいろいろ変えてみて調節します。慣れると気持ちよくなるコツがつかめてくるのですが、それまではかなり痛いです。

1.2 頭髪育成健康機械(未完成)

観客は椅子に座り、ヘッドギア状のエレメントを頭にセットします。手前のハンドルを両手で回転すると、ロープの動きを介してヘッドギアに取り付けられた小さなブラシがテンポ良く頭上を叩き、マッサージします。

1.3 チャップリン健康機械(未完成)

観客は自ら巨大な歯車の間に挟まれます。歯車は微妙なテンションで釣り下げられ、しかも柔らかいクッションで表面が覆われています。そのため、挟まっても痛くはありません。むしろ、歯車の歯のつき具合が、背中のつぼにうまくはまって気持ちいいのです。

1.4

その他、禅問答健康機械。チョップ式健康機械。ヨーヨー健康機械などを予定しております。いずれもタイトルおよびその内容はまだ未確定です。

2 製作意図

これらの健康機械は、親しみやすい外見と動きの裏側に、現代社会への私なりのメッセージを込めているつもりです。

2.1「健康」というテーマについて。

「健康」になることで、私たちは精神的、肉体的な安らぎを得ることが出来ます。しかしそれは、物質的な豊かさを得た私たちについて回る脅迫概念でもあります。ただ本能に任せた生活スタイルに身を任せることによって生存していけるほかの生物達とは違い、我々は理性によって生活を制御していかなければ安心して暮らしていくことは出来ません。

つまり「健康」とは、現代社会に生きる私たちに課せられた新しい労働義務であるとみなすことが出来るでしょう。山宮隆の健康機械が、どこか拷問機械のような印象を持つのはこの為です。「健康」とは、確かに快楽であると同時に、死ぬまで終えることの出来ない拷問でもあるのです。

2.2 機械と身体との関係について。

私の作品に使われているような歯車やカムなどの機械要素は、実はもう既に日常生活の中で頻繁に出会うということはなくなっています。それらはケースの中に隠されていくか、もしくはより洗練された電子機器に置き換わっているからです。不器用な歯車達は姿を消していき、機械は現在ではすっかり抽象的な存在になっています。しかし、それを扱う当の人間達はその抽象化についていくことは出来ません。

たとえば、あれほどもてはやされたデジタル時計に対して、今ではアナログ時計のほうが視覚的に判りやすいとみなされるようになった事。現代技術の代表であるコンピュータにおいても、我々は画面の中の、スライダーやボタンといった比喩を使ったシンボルを使って操作する事等が挙げられます。

私の作品のような、体当たりで直接身体と機械が関係し合う中に、これからのマン・マシン・インターフェースのあり方への直感が見出せたら幸いです。

2.3 健康器具について。

医学が、科学的に体系だった治療法を建前としている一方で、それに平行してさまざまな民間療法や健康器具等が現れては消えていきました。それらは「正統」医学とは流れを異にし、不合理な根拠をもとにしているかもしれませんが、より直接的な生々しい人間の欲望を具現化したものであるとみなせます。

そのような健康器具をモチーフとする事によって、科学的な分析では割り切れない人間の秘密に近づきたいと考えています。

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山宮隆 yamamiya@kcua.ac.jp